主人公は、47歳の主婦・栗原佐都子です。夫の清和とともに、なかなか授からない子どもを望んで不妊治療を続けていましたが、検査の結果、夫にも不妊の原因があることが分かります。体外受精を重ねても実を結ばず、二人は子どもを持つことをいったん諦めます。そんなとき、テレビで特別養子縁組という制度を知り、あっせん団体への登録を経て、一歳に満たない男の子を迎えることになります。その子を朝斗と名づけました。
特別養子縁組は、実母が育てられない事情のある子どもを、別の家庭で育ててもらうための制度です。実母は原則として育ての親の情報を詳しく知らされない仕組みになっています。この作品では、朝斗の実母・片倉ひかりが、当時中学生だったという設定になっています。ひかりの希望で一度だけ顔合わせをした佐都子は、「朝斗をしっかり育てていく」と約束し、六年が経ちます。
ある日、佐都子のもとに「片倉ひかり」と名乗る人物から電話がかかってきます。子どもを返してほしい、嫌なら金を用意しろという、脅迫めいた内容でした。しかし実際に会った相手は、六年前に顔合わせした片倉ひかりとは、見た目も言動も朝斗に関する知識も、別人としか思えないものだった——ここから物語はミステリーの色を帯びていきます。
前半は佐都子の不妊治療の挫折と、朝斗を迎えてからの日々。後半はひかり自身が中学生で妊娠してしまってからの苦しみと出産後の生活が描かれます。一人の子どもによって絶望的な状況に追い込まれていく人生と、一人の子どもによって希望を見いだしていく人生。その対比が見事だ、と語られていました。養母の側にも実母の側にも共感できてしまう、という不思議な読書体験になる、という感想です。
見た範囲では、評価が大きく割れる点は出てきませんでした。ページ数はやや長めですが、語りの巧みさで中だるみせず一気に読ませる、という評価が一致していました。
紙の本も読みなよ / A-key-Hitが、特別養子縁組という制度の仕組みから、物語の結末近くまでを詳しく紹介しています。
映画版のレビューとしては、ミステリ作家の七尾与史が、原作との関係にも触れながら、母性というテーマの重さについて語っていました(再生回数は2026年9月時点)。