妻が死んでも涙が出ない男の物語、という紹介のされ方をします。長年連れ添った配偶者を亡くしたとき、人はどう気持ちを整理して再出発するのか——それが本来難しい問題であるうえに、愛情がすでに冷めきった関係だったとしたら、その難しさはさらに増す、という視点から語られていました。
主人公の津村啓文(きぬがさひでお)は、出版社を辞めて苦労の末に人気作家になった人物です。芽が出るまでの十年間は、美容師の妻に生活を支えてもらっていました。しかし妻への感謝の気持ちはいつしか歪み、二人の間には隙間風が吹くようになっていた。そんなある日、妻は親友とのバス旅行中の事故であっけなく亡くなってしまいます。
残された啓文は、悲しみが湧いてこないことに戸惑います。葬儀の場でも涙が出ない自分に気づき、「自分は妻を愛していなかったのではないか」「妻も自分を愛していなかったのではないか」と思い至る。情けなさを抱えたまま、心の整理がつかない啓文でしたが、ある事情から、亡くなった妻の親友の遺族——妻を亡くしたトラック運転手と二人の子どもとの、騒がしい生活に関わるようになります。その他者とのやりとりが、凍りついていた啓文の心に少しずつ変化をもたらしていく、という筋書きです。
見た範囲では、評価が大きく割れる点は出てきませんでした。ただし、自分に向き合うことを避け続ける主人公の情けなさをどう受け止めるかで、読後感の印象は変わりそうです。
BookTV358が、あらすじと物語の背景を丁寧にたどりながら紹介しています。
本と珈琲のある暮らし【やわつむり】は、読書のあいだの一冊として本作を取り上げていました(再生回数は2026年9月時点)。