お笑いコンビ「スパークス」を組む徳永が、熱海の花火大会の営業先で、「あほんだら」というコンビを組む神谷という男と出会うところから、物語が始まります。
神谷は、誰にも媚びない、とにかく尖った芸人でした。作中で紹介される漫才のネタも独特で、通行人を指さして「地獄、地獄」と言い続けたり、文句を言ってくる客にマイクなしで凄んでみせたり。そんな神谷の生き方に惚れ込んだ徳永は、彼を師匠と慕うようになります。居酒屋で交わされる漫才談義でも、神谷は理屈で語るのではなく、言葉や態度、生き様そのもので「面白い」を体現しようとする。「漫才師である以上、面白い漫才をすることが絶対的な使命であり、日常の行動すべてが漫才の一部だ」という神谷の言葉が、この作品の芯にある思想として紹介されていました。
紹介している人は、才能や個性というものに真っ向から向き合った人にしか分からない世界が描かれている、芸事に全身全霊をかけた人ほど刺さる作品だ、と語っていました。文体はやや固めで、エピソードとエピソードをつなごうとする努力の跡が見えるという指摘もありましたが、それを差し引いても素晴らしい作品だった、と評価しています。
著者自身は、刊行から十年近く、この小説をほとんど読み返してこなかったと語っています。「芸人が書いた小説」という文脈で語られることが多く、自分の中で一種の恐怖症のようなものがあったと述べていました。単行本を文庫化する際に多くの作家が行う表現の手直しも、ほとんどしていないとのことです。理由は「読み返すのが怖かったから」だと、著者本人が明かしていました。
見た範囲では、評価が大きく割れる点は出てきませんでした。「芸人が書いた小説」という前情報を先に置いて読むか、まっさらな状態で読むかで、受け取り方の入り口は変わりそうです。
いちばん見られているのは、ピース又吉直樹【渦】公式チャンネルでの本人による全文解説です。刊行から十年間ほとんど読み返さなかった理由が、著者自身の言葉で語られています。
文学と手品は、神谷という人物の強烈さと、徳永が彼に惹かれていく過程を詳しく紹介していました(再生回数は2026年9月時点)。