
ミステリーとして読み始めたのに、読み終えたときに残っていたのは戦争を生きた人たちの暮らしのほうだった——この作品について語る人には、そういう順序で話す人が多いです。
舞台は第二次世界大戦の直後、連合国に分割占領されたベルリンです。主人公のアウグステは、米軍の兵員食堂で働く若い女性。戦時中に自分をかくまってくれた恩人が毒殺され、その疑いを向けられたところから物語が動き出します。彼女は、亡くなった男性の義理の息子エーリヒを探す旅に出ることになり、道中を共にするのは、かつてプロパガンダ映画で悪役を演じていた元俳優の男です。
紹介している人が口をそろえるのは、この旅がとにかく危険で、同時に冒険譚として面白いということでした。占領下のベルリンでは市民の権利が大きく制限されていて、街を横切るだけのことが命がけになる。その道中に、1942年から終戦までのドイツ市民の暮らしを描いた挿話が並行して差し挟まれる構成になっています。
書評家は、登場人物の設計のうまさを評価していました。人数が多いのに、それぞれがなぜそう動いたのかが一つずつ腑に落ちるように書かれていて、物語がどこへ向かおうとしているかが読んでいて分かる、という見方です。テーマとしては「失われたものの大きさと、それを取り戻すことの難しさ」を、立場の弱い一人の女性の側から描いた作品だと語られていました。
五百ページ近い厚みがあり、前半は骨が折れるという声もあります。ただ半分を過ぎたあたりから先が知りたくて止まらなくなり、夜中に一気に読み切ってしまった、という読み方をしている人もいました。
謎解きそのものをどう受け取るかで感想が分かれます。帯には「真相が明かされるラストが圧巻」という評があり、ミステリーとしての決着を高く買う読み方がある一方で、正直そこには驚かされなかった、それよりも戦時下・占領下のドイツの人間模様が描かれているところに価値がある、と率直に語っている人もいました。
グロテスクな描写、目を覆いたくなる場面が少なくない点も、人を選びます。ただしそれを「自分の中にもあるかもしれない醜い側面に向き合える」こととして受け取っている人もいました。
ぱくゆうチャンネルは、直木賞候補作を全部読んで受賞作を予想するという企画のなかでこの本を取り上げていて、五百ページを読み通した実感と、ミステリー部分への率直な物足りなさまで正直に語っています。
書評家の視点では、MOCで豊崎由美さんと杉江松恋さんが、物語の筋立てと登場人物の設計を細かくたどりながら紹介しています。横松心平がお届けする本のすすめ書評チャンネルは、ミステリーとしての面白さと戦争文学としての読み応えの両方がある一冊、とまとめていました(再生回数は2026年9月時点)。