これを読むと、便箋や封筒をきちんと選んで誰かに手紙を書きたくなる——そう語られることの多い作品です。
主人公は雨宮鳩子、二十代後半の独身女性です。鎌倉の街で「椿文具店」という文房具店を営みながら、幼い頃に育ててくれた祖母から受け継いだ「代書屋」の仕事もこなしています。雨宮家は江戸時代から代々続く由緒ある代書の家系で、かつては殿様に代わって文をしたためる役目を担っていました。今の椿文具店も、客の依頼に応じて代わりに手紙を書く、という少し変わった商いを続けています。
祖母は厳しい人で、「おばあちゃん」と呼ぶことすら許されず、幼い頃から何時間も習字の練習ばかりをさせられていた、という背景も語られます。自由のない暮らしに嫌気がさした鳩子は一時期非行に走り、学校を出てからは海外を放浪していましたが、祖母が亡くなったのを機に実家へ戻り、代書屋を継ぐことを決めます。
物語は、訳ありの依頼人たちの手紙を鳩子が代筆する連作の形をとっています。ペットの死を悼む手紙、疎遠になった友人への絶縁状、かつての恋人へ幸せを伝えるラブレターなど、依頼の理由はさまざまです。鳩子は文字の書き方から便箋、封筒、切手の絵柄まで、依頼人の思いをもっとも効果的に伝える組み合わせを選び抜きます。作中に登場する手紙が、実際に手書きの文字でそのまま印刷されている点も、読者を惹きつけるポイントとして挙げられていました。
代書という仕事を通じて近所の人たちと関わりながら、鳩子が最後まで折り合いの悪かった祖母への複雑な思いをどう解消していくか——そこがこの物語の一番の読みどころだ、と語られています。
見た範囲では、評価が大きく割れる点は出てきませんでした。手紙や手書きの文字という題材そのものへの関心が高い読者ほど、細部の描写を楽しめる作品だという受け取り方が中心でした。
浅井書房が、代書屋という仕事の成り立ちから、鳩子が依頼人ごとに文房具を選び抜く場面まで、詳しく紹介しています。
続編とあわせての紹介としては、文学YouTuberベルが、鎌倉という舞台の魅力と、手紙というモチーフが持つ意味を語っていました(再生回数は2026年9月時点)。