イラン、日本、エジプトの三つの国を舞台にした、主人公・圷歩(あくつあゆむ)の一人称で語られる長編です。受賞作だから淡々と進むのかと思いきや、衝撃のラストで終わる、と紹介している人が語っていました。
歩はイランの病院で生まれ、海外赴任中の父、破天荒な姉・貴子、幸せを願う母とともに暮らしています。イランで幼少期を過ごしますが、イラン革命が起こり、一家は大阪へ帰国します。生まれつき要領のいい性格の歩は、大阪の幼稚園や小学校ですぐに周囲に溶け込みます。一方、貴子は変わった性格が裏目に出て、同級生から意地悪なあだ名をつけられ、周囲から孤立していきます。その後、父の赴任先がエジプトに決まり、家族はふたたび引っ越すことになる——そうした環境の変化に振り回されながら、歩が成長していく物語です。
紹介している人が指摘していたのは、著者が人間の内面にある感情を描くのがとても巧みだという点です。歩という主人公は、ほとんど自分の意見を持たず、その場の流れに身を任せ、周囲と同調しているように見られようとする人物として描かれています。この「事なかれ主義」に強く共感した、という感想がありました。一人称の語りによって、歩が分からないことは読者にも分からない、というトリックが仕込まれていて、幼少期の不自然な出来事の数々が、最後のラストへとつながっていく構成になっている、と語られていました。
歩の対極にあるのが、数々の奇行を繰り返す姉の貴子です。無難で普通な生き方をする歩と、まったく普通ではない人生を歩む貴子。この二人の物語が最終的にどう収束するのかが、この作品の読みどころとして紹介されていました。
見た範囲では、評価が大きく割れる点は出てきませんでした。ただし、歩という「自分を持たない」主人公への共感の度合いは、読者自身の性格によって変わりそうです。
羊太郎が、歩と貴子という対照的な姉弟の物語を、一人称の語りが持つ仕掛けとあわせて詳しく紹介しています。
元気なしなしは、自分を変えたいと思う読者に向けて、作中の印象的な言葉を引用しながら紹介していました(再生回数は2026年9月時点)。